好きなもの#004「フリースタイルバトル」
お前には負けねえそれしか言えねえだけど
このバイブスと言葉で弾けるだけのラップ
別にいいじゃねえかそれでも
俺が決勝お前とこんなバトルがしたかったぜ
yo 間違いねえぞ!―TK da 黒ぶち THE罵倒2012決勝 TKda黒ぶち vs 輪入道
フリースタイルダンジョン ORIGINAL SOUND TRACK VOL.2
- アーティスト: VA
- 出版社/メーカー: GRAND MASTER
- 発売日: 2018/01/24
- メディア: CD
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情にもろいです。
だからこそ、熱いバトルにはついつい感情移入しがちになります。
今回は引用が多いため、前置きはこのくらいにして本題に。
熱いバトルの代名詞といえばやっぱりスクライド。当時めちゃくちゃはまりました。そして今回ご紹介するフリースタイルバトル(以下、MCバトル)はまさにあのスクライド同様に、個性に溢れた熱い戦いがあり、あの頃と同じく今めちゃくちゃはまっています。
■試合の流れ
おおまかに基本的な試合の流れから。
- 先攻・後攻を決める
- DJが流すビートに合わせて即興ラップ
- 勝敗を決める
勝敗の決め方ですが、観客の声援が大きい方、より多くの観客が応援したい!と思ったほうが勝ちになります。
普通のスポーツだと、どれだけ応援しても試合は試合で勝負が決まるじゃないですか。MCバトルではそれがなく、観客の応援が勝敗に直結します。そのため、大逆転やジャイアントキリングのようなドラマが起きやすく最後の最後まで見ごたえがあります。
また、MCバトルにはいくつか要素があるのでそれをご紹介します。
これらの要素がラッパー各々の個性を作り出し、MCバトルをより深みのあるものにしています。
■LIME(ライム)
韻を踏むことです。ラップですから、上手い韻は自然と盛り上がりに繋がります。
当然「布団が吹っ飛んだ」のようなオヤジギャグではどんなに韻を踏んでも盛り上がりません。例えばこの一節。
頂く西から勝利 お前は甘めのピリ辛料理
―CIMA
西(関西勢)が勝利するという言葉からピリ辛料理なんて想定できないですよね。う~む上手い。
■FLOW(フロー)
ラップするときのビートへの乗り方、つまり音楽としての完成度です。緩急や高低差をつけたり、間を空けたり。フロウが上手い人は、即興のはずなのにまるで元々の楽曲だったのかのように錯覚します。
こればかりは文章では伝えられないので、心苦しいところ。
■PUNCHLINE(パンチライン)
印象に残る言葉を出せているか。これが重要で、このパンチラインを武器に全く韻を踏まずに優勝しているラッパーも実際にいます。例えばこの一節。
ただな 貰った菊の花 蹴っちまった
ボタン(牡丹)のかけ違いで
バラバラ(薔薇)になった筋
でもサクラ(桜)はいないだろ?分かるか
でもお前みたいなMC 死人に口なし(梔子)だ
―R-指定
この試合の直前に、実際に貰った菊の花を蹴り飛ばすという出来事があった後での即興のパンチライン。上手すぎてもうよくわからない。
■ANSWER(アンサー)
相手の言った言葉にどれだけ上手く返せるか。この要素があるためMCバトルでは基本的に後攻が有利です。例えばこの一節。
モデル 女優 もちろんアイドル
ヤレる女なら ブスでも抱いとく
俺を止めてくれ
―GASHIMA
俺はイケイケだぞ!とアピール。この言葉に対して、このアンサー。
超下らねぇ 勝手にやってろ
適当な女を抱いて 男を下げとけ
俺は嫁さんと娘を抱いてる
何が正しいか 俺は知ってる
「抱く」という意味を上手く使って完全にアンサーしています。惚れる。カッコいい。
■VIBES(バイブス)
おそらくこれが一番重要な要素です。これは、今まで説明した要素では測れない何か、HUNTER×HUNTERの言葉を借りると印象値が一番近い表現だと思います。
MCバトルはそれぞれの経歴や個性をもつ、ラッパーという人間同士の勝負です。だからこそ、即興で吐き出される言葉には特別な意味ができ、ドラマが生まれます。言葉の深み、言葉の重み、言葉の熱さ。そういった何かがバイブスという要素です。例えばこの一節。
1年ぶりだな このセリフ
―R-指定(vsDOTAMA)
一見何気ない言葉ですが、この言葉には深い意味があります。このR-指定さんとDOTAMAさんにはライバル関係と呼べるような因縁があり、1年前の戦いでDOTAMAさんがR-指定さんに最初に放った言葉が「1年ぶりだな」でした。
そして1年越しに今度はR-指定さんから最初に放った言葉もまた「1年ぶりだな」。この2人だからこそ、深く重く熱い意味が生まれます。
他にも、もっとわかりやすく熱さを感じる言葉もあります。
地元の奴ら よく見とけ
テレビの前の奴ら よく見とけ
今から俺が この般若を仕留め
明日には全国に名前を広げる
頂くぞ 全部 Money Props 頂くぞ
俺を舐めんじゃねぇ チャレンジャーです
フリースタイルダンジョン いざ覚悟!
-peko
これはフリースタイルダンジョンというTVでの一節なのですが、一般的にはまだ世に知られていないpekoさんが超有名である般若さんに向けて放った言葉です。その声や表情も合わさり、その一言一言から、勝ちたい、名を上げたい、何か手に入れたい、そんな気持ちがひしひしと伝わってきて1人テレビの前で震えました。最高だった。
◼︎MCバトルの面白さ
個性あふれるカッコいい大喜利、そして人間ドラマです。
ライム、フロウ、パンチラインやアンサーには思わず上手い!と思わせられ、まるで大喜利のような面白みがあると共に、それぞれのラッパーの個性が如実に感じられます。
そして何よりもバイブス。純粋な想いから生まれる即興の言葉、それが持つ圧倒的な熱量はスクライドの世界を彷彿とさせます。
先ほど後攻が有利と述べましたが、あえて不利な先攻をとることで結果的にバイブスが高まることもあり、リスクやマイナスならば起爆剤というところ。まさにスクライドの世界観。熱い勝負が好きな人なら絶対はまると思います。
そろそろ締めます。
ちなみに、冒頭に紹介したTHE罵倒2012決勝の試合がまた熱い。即興ラップの中、お互いの過去を語り合い、アンサーの応酬がお互いのバイブスを高めあっている、感動的な試合です。興味が出た方はぜひ見てみてください。
それにしてもスクライド見たくなってきた。
そう思うだろ?アンタもッ!!!